“がんかもしれない期”のサポート「かもサポ」誕生の背景と挑戦

2人に1人はがんになる-超高齢化社会を迎えた日本では、多くの人ががんへの不安を抱えています。

がん検査から結果が出るまでの数日から数週間。

その間、不安な気持ちを抱え、もやもやしたまま、時間が過ぎるのを待つしかないのでしょうか。

今回は、そんな”がんかもしれない期”をサポートするサービス「かもサポ」運営者である田中愛さんに、サービス誕生の思いと挑戦をお聞きしました。

企画・運営:田中 愛(たなか あい)

経歴: 
大学では経済学を学びましたが、「薬剤師になりたい(くすりに携わる仕事がしたい)」という幼い頃からの夢を諦めきれず、
就職活動では、製薬会社を中心に挑戦し、無事、大手製薬会社に勤務することが叶いました。
仕事では新しい業務を任され、転勤先でも友人ができ、「充実しているなぁ~」と思っていた2021年、
人間ドックで受診した子宮頸がん検診で異常を指摘され、かかりつけの婦人科で精密検査をした所、
CIN3(子宮頚部上皮内がん)と診断されました。
円錐切除術という手術を受け、現在は経過観察のため、定期的に検査してもらっています。
2024年から、大学院で「私、がんかもしれない期」について研究を始め、この度、「かもサポ」の開始に至りました。

「自分の経験から、モヤモヤしている誰かの力になれると思った」

聞き手:
本日は、「かもサポ」という医療サポートサービスの構想についてお話をうかがえるのを楽しみにしていました。まず、このサービスを思いつかれたきっかけからお聞かせいただけますか?

田中さん:
よろしくお願いします。きっかけは、私自身が子宮頸がん検診で「要精密検査」と言われた経験でした。私の場合、結果的には「CIN3(上皮内がん)」と診断されましたが、その結果が出るまでの間、
何をするにも頭のどこかに「がんなのかなぁ」という思いがあり、ずっとモヤモヤとしていました。
検査結果を聞きにクリニックに行った時には、医師からの説明を受けても頭が真っ白になってしまいました。でも、そんな状態でも、手術を受ける病院や今後のことを決めなければならず、精神的に
とてもつらい経験でした。

聞き手:
それはおつらい経験でしたね…。でも、その経験が「かもサポ」の構想につながったんですね。

田中さん:
はい。2024年に、当時通っていた大学院で研究テーマを考えなければいけなかったのですが、当初は「がん患者さんのための情報アクセス改善」をテーマにしようと思っていました。
しかし、「私にしかできないことは何か?」と考えた時、がんかもしれない不安と向き合ってきた患者としての気持ちと、製薬会社での仕事を通じて知った医療者の気持ち、そのどちらもわかる自分だからこそできることがあるのではないかと思い、「私、がんかもしれない期」の不安軽減について研究を進めていくことにしました。
その結果、検査結果を待つ「私、がんかもしれない期」の気持ちを支えるサービスに行き着きました。

「知らない誰かだから話せることがある」

聞き手:
“かもサポ”というネーミングも印象的ですね。

田中さん:
ありがとうございます。「がんかもしれない」の“かも”と、“サポート”を掛けた名前です。この期間って、家族や友人に相談しづらいんです。「がんかもしれない」と言った瞬間に、
相手の態度が変わるかもしれないと思うと、話すのが怖い。だから、自分のコミュニティーではない誰かに話したいというニーズがあるんです。

聞き手:
なるほど。“話したいけど話せない”状況にこそ、支援の余地があるんですね。

田中さん:
そうです。不安な気持ちをはき出したい人もいれば、情報を集めたい人、この期間に自分と向き合いたい人もいる。それぞれに合わせた“過ごし方の提案”をしながら、がんかもしれない期に寄り添いたい
と思っています。
将来的には、必要に応じて、専門家につなげられるようなサービスに出来たらと考えています。

「医師に会う前の“準備”も重要なんです」

聞き手:
似たようなサービスもありますが、「かもサポ」ならではのポイントは何でしょうか?

田中さん:
既存サービスは、医師や看護師といった医療者に相談できるものがメインです。ただ、「かもサポ」はその前段階——つまり、自分が知りたい情報を得るために、医療者にどんな風に聞くか、何を準備
すればいいか、という“受診前の準備”もサポートします。

聞き手:
確かに、診察室では緊張して聞きたいことを忘れてしまうこと、ありますよね。

田中さん:
そうなんです。大学院での研究時に取ったアンケートでも「医療者の言うことは専門用語が多く、難しかった」「何を聞けばいいのかもわからなかった」という声も多かったです。だからこそ、心の準備や、医療者への相談のシミュレーションも、“支え”になると考えています。

「AIではできない、“親身さ”を」

聞き手:
AI時代に、人間が提供できる価値は何だと思いますか?

田中さん:
“親身になってくれること”だと思います。AIでもそれっぽくはできますが、「この人は本当に自分のことを考えてくれている」と感じられるのは、人と人のコミュニケーションの価値だと思っています。
特に、「がんかもしれないし、そうではないかもしれない」というセンシティブな時期だからこそ、適切な距離感を持った第三者で、かつ生身の人間であることが大事だと考えています。

「不安な時間を、“誰かと過ごせる時間”に変えていく」

聞き手:
最後に、「かもサポ」に込める想いを改めて聞かせてください。

田中さん:
「がんかもしれない」と思って過ごす時間は、本当に不安で孤独です。でも、誰かと一緒にその時間を過ごせるだけで、人は安心感を感じることができるのではないでしょうか。
医療は命を救うことだけではなくて、「どう生きるか、生きたいか」を考えるきっかけを提供してくれるものでもあると思っています。
「がんかもしれない期」のモヤモヤを一人で抱え込まず、少しでも心軽く過ごせるよう、「かもサポ」が皆さんの“伴走者”になれたら嬉しいです。